解説系

木材解説:優しく包み込む美音を生み出すトップ材「イングルマンスプルース」

イングルマンスプルース解説

Picea engelmannii

この記事ではフィンガーピッカー向けのモデルに採用率の高いイングルマンスプルースについて解説していきます。

こちらもCHECK!!

木材解説まとめページ

皆さんはギターを選ぶ時、何をポイントにして見ていますか? 特に音色にフォーカスする場合、木材選びは非常に重要なポイントとなります。 アコースティックギターは音に関わる大部分が木で出来ていますので、それ ...

続きを見る

イングルマン・スプルースとは?

出典:Wikipedia

カナダ南部〜米国カリフォルニア州の太平洋沿岸、ロッキー山脈に分布しているマツ科トウヒ属の樹木。学名は「Picea engelmannii」。

特徴

ギターに使われるスプルースの中では特に白みが強く、軽軟な特徴。ホワイト・スプルースと呼ばれることもある。経年してもあまり日焼けせず、黃白色に留まる。

シトカスプルース同様に加工性に優れており、適度な強度と弾力があるため建材や家具等にも利用されます。建材用の樹齢30〜80年の木は安定して供給されているのに対し、ギターに使われるものはある程度の大きさが必要なため樹齢180年以上の丸太から切り出されます。しかし林業のサイクルはおよそ50〜80年なので植林された木はほぼ使えず、良質な材料はどんどん無くなりつつあります。

木の性質はスプルースの中では最も米杉(シダー)に近く、気乾比重が0.41と軽量。音響特性に優れた材でしなやかかつ繊細な倍音を奏でます。シトカスプルースと比べると音の遠達性は劣りますが優しく広がり包み込まれるような心地よい響きが魅力です。

気乾比重とは?

木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値のことで、木の硬さや強度を示す基準の一つ。

数値が大きいほど重く、小さいほど軽い。この数値が1を上回ると水に沈みます。

世界で最も軽い木はバルサ(0.1)で世界で最も重い木はリグナムバイタ(1.3)と言われているらしいです。

アコギの主要トップ材気乾比重
エゾ松0.47
シトカスプルース0.46
イングルマンスプルース0.41
ジャーマンスプルース0.44
アディロンダックスプルース0.42
米杉0.38
アフリカンマホガニー0.56
ハワイワンコア0.67

音の遠達性とは?

軽量なトップ材は大きな音を鳴らす際でもピッキングにさほど力は必要ありません。ギターを中心として円状に広がるような響き方をします。これはこれで心地よい倍音なのですが、遠くまで音を届けたい場合は大変です。逆に硬くしなやかなトップ材の場合は芯の強い響きを出すために効率の良いピッキングが必要ですが、サウンドホールが向いている方へ真っ直ぐに音を届けることができます。例えば、実際には10m先で鳴っているのに、目を閉じるとすぐ近くで弾いてもらっているように感じるのです。

いかに遠くまで音を届けることができるかを音の遠達性と言います。

相性の良い材

インディアンローズウッドやマダガスカルローズウッドとの組み合わせではクリアーでスッキリとした抜けの良い響きと太くやわらかな響きを両立させることができます。ホンジュラスローズウッドやココボロ、ハカランダ等の重く硬い材は良質なイングルマンスプルースとの相性が良いでしょう。イングルマンスプルースの軽さを最大限に生かしたい場合はアフリカンマホガニーもしくはホンジュラスマホガニーがおすすめ。ウォームでメロウな鳴りを生み出します。

イングルマンスプルースは、他のどんなマテリアルと組み合わせても繊細なピッキングに対して良いレスポンスが期待できます。

良い意味で好き嫌いが分かれる材

トップ材としての人気はまずまず。耳あたりの良い優しい音色が魅力ですが、逆に言うとダイナミクスが狭くアタックが効かせづらい、という点が好みを分けています。極端に言うなら、激しめのストロークでドコドコ鳴らしたい方にはあまり向かないと思います。

イングルマンスプルースを使用している代表的なモデル

最後に、イングルマンスプルースを使用されている代表的なモデルをご紹介して終わりたいと思います。気になるモデルは是非チェックしてみてくださいね!

YAMAHA Lシリーズ 

イングルマンスプルースとARE(※)加工により価格ながら圧倒的なパフォーマンスを誇るシリーズ。サイズはLS,LJ,LLの3種類で私のおすすめは最も小さいサイズのLSで、十分すぎる音量と高い演奏性を兼ね備えています。サイドバックはインディアンローズウッドを採用。6と16は中国製、26以降は日本製となっています。

下位モデルですらかなり大きな、しかし耳障りでは決してない音量で力強くも優しい音色。低音から高音まで整った瑞々しい倍音を持つ素晴らしいモデルです。

植村花菜、植田真梨恵、大石昌良、小倉和博、大橋卓弥(スキマスイッチ)、高橋優、三浦拓也(DEPAPEPE)、矢井田瞳、優里など多くのプロアーティストにも愛されています。

(※AREとは…木材に対してYAMAHA独自の技術を用いることで最初から経年して弾き込んだような倍音に整えることで、Acoustic Resonance Enhancementの略です。公式サイトでかなり詳しく解説されています。)

こんな人におすすめ

  • なるべく低価格なモデルがいいけど音に妥協はしたくない
  • 「枯れた音」より「潤いのある綺麗な音」を求めている

「YAMAHA LL-16 vs Martin D-28」サウンドチェック

MORRIS SC-121

国産ギターブランドMORRISが打ち出すフィンガーピッカー向けSシリーズの受注生産モデルSC-121。サイドバックはマホガニーを採用。ボディサイズは”Thin”グランドオーディトリアムで、一般的なOOOサイズよりももう少し薄く作られているため、軽い力でのピッキングでも驚くほど良いレスポンスとクラスを越えた大きな音量で鳴ってくれる。SC-121は音の立ち上がりだけでなく、整った倍音のバランスも大変魅力的で、まさにソロギタリストのためのギター。

こんな人におすすめ

  • ソロギターに最適なモデルを探している
  • アコースティックギターらしい木の質感の音色を奏でるギターを探している

Martin OMJM

2003年に発表され、大好評だったOM-28JMの後継機種として発表されたJohn Mayerシグネイチャーモデル。イーストインディアンローズウッドを採用。「美しく整った倍音」というモダンな要素と「枯れた音色」というオーセンティックでブルージィな要素を兼ね備えていて、多様な現代の音楽スタイルに幅広く適応できるポテンシャルを持っている。勿論ピック弾きでも十分に良さが感じられますが、とにかく繊細にレスポンスを返してくれるのでフィンガースタイルに特におすすめ。

こんな人におすすめ

  • ライブでもレコーディングでも活躍するポテンシャルの高い1本を探している
  • フィンガースタイルで弾くのに最適な1本を探している
  • 潤いのある音よりも枯れた音色が好き

「Martin OM-28 vs OMJM」サウンドチェック

優しく聴かせる音色を出したいならイングルマンスプルースはかなりおすすめ

イングルマンスプルースはとても繊細で優しい音色なので、耳あたりの良い音楽的な響きを提供してくれるでしょう。

定番材のシトカスプルースと比べて採用しているモデルは少ないですが、限定生産のカスタムモデルやフィンガーピッキング向けのモデル、個人製作家のモデルに使われる事が多々あり、とても魅力的なトップ材です。

 

 

-解説系
-